ところで、それらの案にはそれぞれの考え方・根拠があり、その考え方・根拠には反論が想定できます。たとえば「東京電力が負うべきだ」という案を支える考え方として「事故を起こした原子力発電所を運営していたのが東京電力だから」というものがあげられるでしょう。そしてその考えに対して「国のエネルギー政策に従って、国の指示通りにやってきたのだから、実質的な運営主体は国である」という反論が可能でしょう。
ここで【問題】です。下の(A)~(G)から3つ選んで、そのものに福島原発事故に伴う損害賠償の一部を負担させるとしたならば、それがどのような考え方によるものか説明しなさい。また、その考えに反論しなさい。ただし、各1~2行程度で簡潔にまとめること。
なお、「国民の理解を得られない」や「みんなで力をあわせて」あるいは「すぐに全原発を停止するべきだ」などという論はここでは何の説明にもならないのでボツである。
(A) 東京電力から電力を買う消費者(電気料金値上げ)
(B) 東京電力に融資している金融機関(債権の放棄・棒引き)
(C) 原子力発電所を有する他の電力会社(沖縄電力以外の全電力会社)
(D) 現在の納税者(増税)
(E) 未来の納税者(赤字国債発行)
(F) 国家公務員(給与削減)
(G) 被害を受けた住民(泣き寝入り)
《解答例》
(A) 考え方 受益者負担の原則に立てば、消費者が事故のリスクを負うべきだ。
反論 事故後の消費者だけに負担させるのは受益者負担の原則に反する。
(B) 考え方 東電を倒産させるより、債権放棄する方が金融機関の負担は小さい。
反論 原子力損害賠償法に定められた通りにやれば東電は倒産しない。
(C) 考え方 同じ事故リスクを抱えた者同士が支え合うのだから、お互い様だ。
反論 すでに事故が起きてしまった現時点では、対等な立場ではない。
(D) 考え方 事故の責任は原発を推進してきた国(=国民)にある。
反論 「絶対安全」と国民を欺いて進めた政策は、国民の意思によらない。
(E) 考え方 損害を賠償し復興を手助けすることは、未来に向けての投資である。
反論 ゼロからの出発なら投資だが、マイナスからの出発は過去の尻拭いだ。
(F) 考え方 国民に尽くすのが公務員の務め。国民のために出来ることは何でもやれ。
反論 給与は国民に尽くすことに対する報酬。それを差し出すのは本末転倒。
(G) 考え方 事故原因は地震と津波。自然災害だから、誰にも賠償責任は無い。
反論 地震と津波は想定できた。対策もとらず止めもしなかった者に責任あり。
《解説》
設問中の第2段落は「解答のサンプル」でもあります。そこに「案」と「考え方」と「反論」が1セット分入っています。
ところで、最初は(D)の「考え方」を「国全体で取り組むべき課題だから、国民全体で負担を分かち合うべきだ」と書いてみたのだが、そうしたら自分で「反論」出来なくなっちゃって、上のように書き換えた。
この問題、反論の方が難しい。生徒が書いた答案を見ても、「反論」の欄に「反論になってない!」ものを書いているのが多かった。
予想しているより少ない点数しかもらえなくてガッカリする生徒が多いだろうが、ダメなものはダメなのだ。
いや、だいぶ甘く採点したつもりなのだが。よし、これからダメ答案を類別してみよう。
◇ ダメ答案例(その1)(その2)
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