2019年3月26日火曜日

バングラデシュを走るEV車

(2012年春)

 バングラデシュ北西部を走るタクシーの主力は 電気自動車 です。後部座席の下にバッテリーが4個、運転席の下にもバッテリーが1つ、あわせて5個のバッテリーを積んでいます。個人で乗ってもいいですし、乗り合いすることもできます。乗り合いする場合、行き先が合えばどこで乗ってもよくて、どこで降りてもよい。道端で手を上げれば停まってくれます。
 ダッカでは CNG タクシー がたくさん走っていましたが、地方ではまったく見かけませんでした。CNG ステーションなどのインフラが整備されていないのでしょう。その代わり、EV 車が多いのです。現地の人は「オート・バイク」と呼んでいました。
 ラジシャヒ から プティア まで往復の道のりをチャーターしました。片道 25 kmを 1 時間かけて走ったので、時速 25 kmということになります。一般の車よりずっと遅い。田舎道で渋滞も無く、それどころか道の途中に信号が1か所もありませんでしたから、掛け値なしの時速 25 kmです。


 ドライバーさんにいろいろ質問しました。以下、ドライバーさんの証言です。数字は2012年春時点のものです。金額をバングラディッシュの通貨タカで記載しますが、1 タカ≒ 1 円なので、「タカ」を「円」と読んでください。
◇ 昼間タクシーを乗り回したら、夜の間にステーションで充電する。
  費用は 130 タカで、フル充電すれば 150~170 kmくらい走行できる。
◇ 半年から1年に1回、バッテリーを交換する。その費用はバッテリー5個分で
  75,000 タカ。1日あたりでは 370 タカくらいになる。
◇ 以上から、距離あたりの電気代は約 1 タカ/km でガソリンや CNG より安いが、
  バッテリー交換コストを入れると約 3 タカ/km となり、
  CNG より高く、ガソリンと同じくらいということになる。
続いて、車両本体価格。ドライバーさんによると、
◇ モーターが 70,000 タカ、予備タイヤと合わせてタイヤ4本で 80,000 タカ。
◇ その他、車体などすべて合算して…彼がはじき出した金額は… 1,700,000 タカ。
「えっ、高すぎでしょ? 計算間違ってないか? ゼロが1個多くないか?」と私が言うと、携帯電話の計算機機能を使ってもう一度計算し直して、表示を見せました。結果はやっぱり 1,700,000 タカ。
 ホントかなぁ? これじゃぁ自家用車の新車を買うのと変わらない。ホントかウソかわからないけど、ドライバーさんはそう言いました。

 それはそうと、電気自動車って案外シンプルなものなんだなぁと思いました。日本で言うと電動自転車と同じようなもので、大した技術じゃないのかもしれません。性能はバッテリーをどれだけ積むかにかかっているのでしょう。費用については、電気代以外にバッテリー液の交換が必要で、それを含めると決して安くなさそうでした。
 ところで後日、日本でテレビを見ていたら、こんな話が出てきました。「バングラデシュではたくさんの EV 車が夜に充電するために、停電が頻発している」と。確かにありそうな話です。テレビでは「バングラデシュの電力インフラが貧弱だから」と説明していましたが、電力の問題というよりも全体のバランスの問題なんじゃないかと私は思いました。というのは「電力の供給量以上に EV 車が増えた」ということでもありますから。背景にはいろんな規制や政策があるのでしょう。その際にバランスを欠いて、その結果が停電だと考えるべきではないでしょうか。

 もうちょっと計算を続けましょう。今度は日本でのことを考えます。日本でも EV 車が市販されていますね。さて、EV 車とガソリン車ではどっちがお得か? ここではエネルギー効率も環境負荷も燃料充填のことも税金も補助金も無視して、利用者の金銭的コストだけを考えます。
 EV 車は燃料代は安いですね。一方、初期コストつまり車体価格は高い。ザックリ計算してみましょう。どれくらいの距離を走れば EV 車の初期コストが高い分を回収できるのか?
 電気代はゼロとしましょう。現状では無料の充電設備もありますから、計算を簡単にするためにこれくらいザックリいきます。ガソリン代は ¥130/ℓ としましょう。さらにガソリン車の燃費を 10km/ℓ とします。そして EV 車とガソリン車の差額をザックリ ¥130万円 とします。現実とそれほどかけ離れた数字ではないと思いますが、いかがでしょうか。
 以上の条件で試算してみましょう。¥130万円 ÷ ¥130/ℓ = 1万ℓ 。つまり EV 車とガソリン車の差額はガソリン 1万ℓ 分に当たります。続いて 1万ℓ × 10km/ℓ = 10万km 。つまり 10万km 走って EV 車が初期コストが高い分を回収できる(元が取れる)ということになります。
 以上いろんなものを無視して、利用者のコストだけで、しかもものすごくザックリと計算しましたが、気になったら自前でザックリ計算してみる習慣は持っていたいところです。私の試算では、バングラデシュでも日本でも「EV 車が金銭的にお得かどうかは微妙なところ」というとりあえずの結論に達しました。


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