(2014年夏)
写真の左上は持ち帰り寿司屋の看板、左下は牛革製品店の看板、右は食堂に貼ってあった紙。いずれも台湾旅行中に見かけたものだ。
左上の写真では「金」を3つ重ねた漢字と「魚」を3つ重ねた漢字を使っている。左下の写真では「牛」を3つ重ねた漢字を使っている。右の写真ではどれもとても複雑な文字だが、最後の文字は「黄金萬」を上下に重ねたように見える。
「金」を3つ重ねると、ずいぶんリッチな気がする。「魚」を3つ重ねると、たくさんの種類の魚があるような気がする。まさか、いわゆる金魚を寿司にしているわけではないだろうが、寿司屋のイメージにはぴったりと言えるかもしれない。
「牛」を3つ重ねるのは、何枚もの牛革をつないだイメージを醸しているのだろうか。人によっては「牛肉を腹いっぱい食う」というイメージを持ちかねないような気もするが、そういう意味ではないらしい。
「黄金萬」は「金」3つよりさらにすごい。「萬」は「万」の旧字体だから、「金貨で一万両」くらいの量だろうか。なにはともあれ、めでたい漢字である。
中国で生まれた漢字は周辺国に伝わって、中国でも周辺国でもそれぞれに進化した。日本では訓読みを当てたり、ひらがなやカタカナに変形したり、日本独自の漢字を生み出したりもした。たとえば「寿司」は音を合わせた当て字で、「鮨」は意味(旨い魚)を込めて作った日本独自の漢字だ。
「金金金」と「魚魚魚」と「牛牛牛」は看板に書くくらいだから、台湾では漢字として認められているのだろう。「黄金萬」が一般に認知されているかどうかは知らないが、意味が分かる人は多いのだろう。
日本と同じく中国・台湾でも英語の単語を使うことが増えているが、日本ではカタカナで表すところを、中国・台湾では結局漢字で書くことになる。たとえばコカ・コーラは中国では「可口可楽」と書く。音を当てながら、すっきりさわやかなイメージを乗せていると言えるだろう。
日本から中国・台湾に伝わった漢字もある。寿司もその例だ。中国本土では日本と全く同じように「寿司」と書き、台湾では旧字体で「壽司」と書く。ところで中国でも台湾でも「鮨」とは書かない。「鮨」では音が合わないか、意味が合わないかのどちらかなのだろう。
日本人が英語を翻訳して作った熟語を中国・台湾でそのまま使うようになったものもある。たとえばコンピュータを中国語で「電子計算机」(機械の「機」ではなくて、「机=つくえ」)と書くが、「電子」も「計算」も日本人が作った熟語だ。ついでながら、台湾でトイレに「男化粧室」、「女化粧室」と書いてあるのを見た。中国本土では使わない表現だと思うが、日本が一時期台湾を統治したことの影響なのだろうと思う。
漢字は音と意味と、そしてイメージを含む。音も意味もイメージも、地域によって微妙に違っていながら、重なっている。漢字には、いつでもどこでも膨らみとズレがある。ネットやメールで使う絵文字も、子供につけるキラキラネームもその文脈でとらえれば、漢字の一つのバリエーションだと言えるだろう。 漢字は自由なのだ。
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